1:『Elizabeth IV』
どうも皆さんこんにちは。死ぬ前に大暴れするセミがトラウマの男、ineedadrinkです。
え?トラウマになるようなことじゃないって?ineedadrinkはビビリ過ぎだって?
ふっふっふ…そう思いますか。
いいでしょう。
今日は、ちょっとだけ、その体験をお話しましょう…。
ジーウジーウジーウジーウ。
夕闇迫る帰り道、俺は、鼻歌を歌いながら歩いていた。空にははっきりとした月と、うっすらとした花火の煙。ひぐらしの声に混じって聞こえてくるのは、一足早い鈴虫たちの控えめな演奏。
ああ、なかなか風流じゃないか。
こんなときには、浴衣の一つでも着ていたいところだが、あいにくとTシャツにジーンズと、なんの面白みもない格好だった。まあ仕方ない。卵が品切れで、ちょっと買いに出ただけなんだから。
六個パック100円というのは果たして安いのか高いのか、そんな哲学的な命題を考えながら、夏独特の、あの胸の奥に火がつくような空気を吸い込む。往復20分もかからないスーパーへの散歩も、たまにはいいもんだ。
ジジッ
耳の後ろで、聞き覚えのある音がした。
ジッ ジジッ
何か固いものに、振動する別の固いものが当たる音。
ジッ
聞き覚えがある。小さい頃、よく捕まえて遊んだ――。
振り返った俺は、自分の呆れるほどの記憶力に、思わず苦笑する。
肩の後ろ30センチに、壁に激突して落ちてくるセミ。
反射的に身をかがめる。セミは何かに怯えているかのように、常軌を逸した飛び方を続けていた。
怖い。
まるで世界全部がガス室になってしまい、そこから懸命に逃げ出そうとするかのように、自分の体が傷つくのも構わず体当たりを続ける。
怖い。
壁にぶつかるたび、絞り出される声は、断末魔。
怖い。
気がついたら走っていた。卵が袋の中で揺れる。割れないようにと頭の片隅で考えている自分がいたが、すぐにいなくなった。とにかく今は、ここを離れることが先決だ。
30メートルは走っただろうか。
もうセミの声は聞こえない。ほっと息をつく。
袋の中を確認する。6個のうち、一つは中身が飛び出していたが、あとは無事。
今日使うのは3個だから、セーフ。
良かった。
ジッ
またしてもあの音。無意識のうちに身をかがめ、やりすごうそうとした。
次の瞬間。
「ジュッ」という音。
やけに耳元で聞こえ、それからこめかみに軽くて固いものがあたる衝撃。
セミが、末期のセミが、こめかみに。
叫ぶ。
叫ぶ。
俺の声も、多分、あのセミと同じ。
…とまあそれ以来、セミは怖くて仕方ありません。
話が逸れてすみません。すっかり遅くなってしまいましたが、レビューのお時間です。
今日は、トミー様DVD2の中身に入っていきます。
では参りましょう。「エリザベス4世」。
現象:
マジシャンは透明な封筒を取り出します。その中にはお札とカードが入っています。カードは裏側になっており、こちらからはそれが何であるかはわかりません。
観客の一人にお手伝いをお願いし、今から一枚のカードを選んでほしい、といいます。
実はこの封筒の中のカードは予言であり、これが外れた場合、中に入っているお金はあなたに差し上げるとのこと。
観客はよーく考えて一枚のカードを口にしますが、
封筒を開けると
中からはそのカードが出てくるのです。
現象説明で、少し省いたところがありますが、概ねこの通りです。
実にトミー様らしい、考え抜かれたマジック。全てが透明な封筒を使うことで、文字通りクリアーに不可能現象を演出できるようになりました。
この人の必殺の才能といっていい、「全ての動きに必要な理由がある」動作ももちろん健在。現象で楽しみ、レクチャーで楽しみ、実にお得感。
「ブックス・オブ・ワンダー」には「エリザベス3世」というマジックが収録されています。どこがどう違うかはタネにかかわることなので言えませんが、俺はこっちの方が好きです。
難易度はやや難といったところ。結構な練習が必要です。とはいっても、チューダーじゃなきゃ無理!というほどではありませんのでご安心を。
使いどころも俺にはなかなか…お金をかけると、性格の変わる人って多いです。トミー様だからウケるけど、俺がやったらその後つなげるのが大変だろうなあ。
でもまあ、話のきっかけにはいいと思います。たとえばナオンちゃんにやってみるとか…。
もわもわもわわ~ん
ナ「すごーいineedadrink!あたし透明な封筒でマジックする人って大好きなの!」
俺「いやあいやあ」
ナ「ね、もう一回やって!」
俺「いいよ。でも…」
ナ「なあに?」(小首をかしげる)
俺「予言が外れたら、中のものをキミにあげる。でももし当たったら…今夜は君をもらいたいな」
俺が「決まった!」と思った瞬間、ナオンちゃんの背中から脱皮してくる鬼子。
鬼「ほほう」
俺「うっ」
鬼「予言のマジック…か」
ガクガクブルブル
鬼「あたいもさ、同じようなの用意してきたんだ。ほら、透明封筒」
ガクガクガクブルブルブル
鬼「質問だ。この中に予言をしておいた。さあ、好きなカードを言ってみろ」
俺「な、なんか、お札が入っていないんですが…」
鬼「差し上げるのはお金じゃないからな」
俺「で、では一体」
鬼「外れたら『むざんの法』だ。当たったら滅・殺!だな」
俺「…そ、それってつまり、もう助からないってことですか?」
鬼「よくわかってるじゃないか」
俺「は、ハートの6で…」
鬼「律儀なやつめ。どれどれ…ハートの2だ。惜しかったな」
ギャー
難易度…★★☆
効果 …★★☆
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